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宇都宮地方裁判所 昭和30年(行)4号 判決

栃木県芳賀郡茂木町大字茂木千六百四十三番地

原告

株式会社 西川

右代表者代表清算人

西川芳次郎

右訴訟代理人弁護士

芳井俊輔

同県真岡市荒町

被告

真岡税務署長

猪越祐司

右指定代理人

武藤英一

小林忠之

小林末男

大島良平

高畑正男

右当事者間の昭和三十年(行)第四号法人税更正決定等取消請求事件につき、当裁判所は訴の適否に関する中間の争に口頭弁論を制限して審理した上次のとおり判決する。

主文

本件訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告が昭和三十年三月三十一日なした原告の昭和二十八年四月一日以降同年九月三十日迄の事業年度分の法人所得金額を六万五千円とし、昭和二十八年十月一日以降昭和二十九年三月三十一日迄の事業年度分の法人所得金額を二十九万七千円とした各更正決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、原告は肩書地に本店を有し、衣料品及び雑貨類の販売業を営むことを目的とする株式会社であるが、被告真岡税務署長(当時の署長は石沢薫)に対し昭和二十八年十一月三十日、昭和二十八年四月一日以降同年九月三十一日迄の事業年度分の法人所得金額を一万七千七百円と算定して確定申告し、その後の昭和二十九年八月二十一日所得金額零、欠損金額二十八万二千三百十七円と算定して修正確定申告をし、又昭和二十九年八月二十一日、昭和二十八年十月一日以降昭和二十九年三月三十一日迄の事業年度分の法人所得金額を所得金額零、欠損金額十八万二千二百二十円と算定して確定申告をした。而して真岡税務署の係官高畑正男は昭和三十年三月八日及び九日の両日実額調査のため原告会社の本店に臨み諸帳簿類の呈示を求めて調査をした。而して被告真岡税務署長は昭和三十年三月三十一日原告の昭和二十八年四月一日以降同年九月三十日迄の事業年度分の法人所得金額を六万五千円と更正し、昭和二十八年十月一日以降昭和二十九年三月三十一日迄の事業年度分の法人所得金額を二十九万七千円と更正する更正決定をなし、同年四月十一日原告はその通知を受けた。しかし真岡税務署の係官高原正男の調査は、仕入総額の把握を主とし、現物商品による差益の鑑定をした外帳簿及び決算関係諸表は披見程度であり、実質は賦課の基準調査たるの実情で経営に基く実額調査とは認め難いものであつた。そのため原告のなした申告が真実であるのに被告は誤つた違法の更正決定をしたのである。そこで各更正決定の取消を求める。と述べ

本案前の主張として次のように陳述した。本訴は再調査の請求又は審査の請求の目的となる処分の取消を求める訴であるが、次の理由により、法人税法第三十七条第一項但書の再調査の決定又は審査の決定を経ないで訴を提起し得る正当な事由があるものと思われるので再調査の請求をせず従つて審査の決定も経ないで本訴を提起した次第である。

(一)、真岡税務署係員高畑正男は前述の如く原告会社の本店に来りて実額調査をしたが、同係官は会計技術についての基礎智識なく、会社経理の真相をは握する能力がない。のみならず、調査に際し帳簿不備の責任を追求し、又原告会社代表者西川芳次郎の妻及び雇女を呼出して給料支払に対する誘導質問をし、その答弁に対しこれを詭弁として難詰して恐怖の念を抱かしめる等その調査方法も妥当を欠くものである。従つてそのようなな係官を以て仕事を担当せしめている被告に対し再調査の請求をしても目的を達し得ないことは明かであり、審査の請求も出先現場係官が同一状態であるから同断である。

(二)、原告会社は昭和三十年三月十四日解散し清算中であるが、原告が再調査の決定又は審査の決定を経た上で本訴を提起するとすれば、被告のなした本件更正決定により、原告に課せられる国税、県税、市税の総額は三十五万円を超え、旁々その後の昭和二十九年四月一日以降昭和三十年三月十四日(原告会社解散の日)迄の事業年度分の所得額申告と、清算結了とに重大な結果を招来する。

被告指定代理人は、本案前の主張として、主文同旨の判決を求め、その理由として、本訴は再調査の請求の目的となる更正処分の取消を求める訴であるから原則として審査の決定を経た後でなければこれを提起することができないことは法人税法第三十七条第一項本文の定めるところである。しかるに原告は再調査の請求もしないで本訴を提起したのであるから不適法の訴として却下されるべきものである。もつとも同法条第一項但書によれば再調査の決定若しくは審査の決定を経ることにより著しい損害を生ずるおそれのあるとき、その他正当な事由があるときは再調査の決定又は審査の決定を経ないで出訴できることになつているけれども、本件においては原告が右決定を経ないで出訴しなければ著しい損害を蒙るというような事情はなくその他正当な事由はない。仮にこの点について原告の主張するような事実が存在したとしても、それは再調査の決定又は審査の決定を経ないで訴を提起し得る正当な事由ということはできない、と述べた。

理由

法人税法第三十七条第一項によれば再調査の請求又は審査の請求の目的となる処分の取消を求める訴は、再調査の請求があつた日から六カ月を経過してなお再調査の決定の通知がないとき、審査の請求があつた日から三カ月を経過したとき又は再調査の決定又は審査の決定を経ることにより著しい損害を生ずるの虞あるときその他正当な事由があるときでなければ審査の決定を経なければ提起できないものであることは明らかである。而して、本訴が再調査の請求の目的となる処分の取消を求める訴であることはその請求の趣旨及び原因によつて明らかであり、又原告が審査の決定は勿論再調査の請求をもすることなしに直に本訴を提起したものであることは当事者間に争いがない。そこで原告が審査の決定を経ないで出訴することの正当の事由にあたるものとして主張する事実につき考えてみるに、

原告主張の各事実は仮にそれが存在するとしてもそれは審査の決定を経ないで出訴することの正当の事由となるものとは解し難い。蓋し、真岡税務署及び国税局の係官がすべて高畑正男のような不適当な者(仮にそうだとすれば)であるとは考えられないし、又原告に課せられる本件法人税以外の諸税の税額決定にはそれぞれ独立した不服申立方法が認められている筈であり、それが清算結了に重大な結果を招来するということは考えられないからである。若しそれが本件更正決定に再調査の請求乃至審査の請求をしないことにより、所得額が確定した結果不利益を蒙ることがあるとしてもそれは原告の権利行使を怠つたことに由来するのであつて、それだけでは法人税法第三十七条第一項但書の正当な事由に該当しないことはいうまでもない。そうだとすれば本訴は法人税法第三十七条第一項に違反してなされた不適法の訴である。よつて本件訴はこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田実)

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